再生への旅

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zoom RSS ヤセの断崖に立って思ったこと

<<   作成日時 : 2011/10/26 04:40   >>

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素風いま何を思へと吹きつのり 玉宗

夫人と二人でふらりとドライブに出かけた。門前から車で二十分ほどのところに、松本清張の長編推理小説『ゼロの焦点』で有名になった能登金剛・ヤセの断崖がある。この作品が発表された後、作品の舞台周辺への観光客が増加し、映画の舞台となった能登金剛・ヤセの断崖で投身自殺が急増し、多い年には18人が自殺したという。観光名所として、能登ブームのときは観光バスやマイカーが押し寄せたと聞く。そのような往時の様子も窺い知れなくなって久しい。

それでも自殺名所としての名は馳せているいるようで、断崖へ至る遊歩道や駐車場は整備されている。併せて、自殺防止の対策も設けられているようだった。
この日、駐車場には富山ナンバーの観光バスが一台止まっていた。夫人と二人、ブラブラ歩いて行くと、「不苦労のベンチ」なるものが建てられてある。以前はなかったものだ。これも自殺防止のためであろうか。若いカップルが坐っていた。そこを通り過ぎると目の前に日本海が開けてくる。

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以前は写真の岩場まで出れたのだが、能登半島地震で海岸線に崩落があったりした影響か、手前に柵が設けられてあった。高いところや断崖を屁とも思わない夫人は頻りに残念がっていた。

「あそこに立つといい眺め、絶景なのよね。」

今にも柵を越えて行きそうである。

「お父さん、こんなところで梨なんか食べてないで!」

「だって、口が淋しくてね・・・」

「まったく、人が見ているじゃない。歩きながら食べるなんて、お坊さんなんだから、人の目を気にしてよ。」

「だって、恋人同士はアイスクリームなんかを食べながら街を歩いているじゃないか。ヤセの断崖を梨を食べながら歩く夫婦がいたっていいじゃない。」

「私、食べてませんから。一緒にしないでください!」

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というような次第で、二人とも断崖から飛び込んで此の世に始末をつけるようなことはないと思うのだが、どうだろう。少なくとも私はない。夫人はどうだろう。普段は大人しく、のんびり屋なのであるが、時々、予想外にフリーズしたり、癇癪を爆発させることもある夫人である。先日も気になることをボソッと漏らした。

「私、鬱だったんだね・・・」

実は、能登半島地震で夫人は倒壊したお寺の屋根の下敷きになり九死に一生を得ている。暫くの間、暗いところや閉処が怖かったと後に聞かされた。夫人に指摘されて改めて思ったことであるが、私も夫人も能登半島地震以後、極端にハイテンションなところがあった。その一方で、閉じ籠もりがちであったことも事実である。夫人は私に弱音を吐くことの少ない人間である。地震以前、以後も一見変わらない彼女の呑気さにヤキモキなんかして復興の歩みをしていた私であったが、思えば私の方が余ほど呑気なもんである。というより、夫人への思い遣りが欠如していたといってよい。

地震以前から私は破綻しかけていた自分の世界のことしか念頭になかった。私の愚痴も弱音も強がりも夢も絶望も再生も、すべて知っている夫人である。最近時々吐くようになった生の言葉から、私という規格外の出来そこないの夫に寄り添ってきた彼女の心労と心模様に思いが至るのだった。

「私、鬱だったのかなあ・・」

今日も又そんなことを口にする。他人事のような物言いである。そんな夫人を見て見ぬふりをしながら、私は芯まで食べつくした梨の蔕を断崖の方へめがけてい勢いよく放り投げた。なんだか無性に自分に腹が立っていた。





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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
素敵なご夫妻ですね。

ブログを読ませていただいて
涙が滲んでしまいました。
投稿文も心の琴線に触れました。

奥様にどうぞ!宜しくお伝えくださいませ.
たか子
2011/10/26 11:07
たか子様。
コメントありがとうございます。
なんだかんだ言っても妻には頭が上がりませんし、感謝してもし足りません。(^^;

これからは、余り肩ぐるしい物言いではなく、エッセイ風な記事を書いてみようかと思っています。
何気ない文章で琴線に触れるようなものを書いてみたいのです。
合掌。

市堀
2011/10/26 20:38
松本清張から始まって、小説を読んでいるようでした。

花てぼ
2011/10/26 23:23
花てぼ様。
短編小説が理想ですね。
まあ、しばらくはエッセイということで。
頑張ります。
合掌
市堀
2011/10/27 20:59

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