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zoom RSS 細見綾子の言葉「今年の紅葉」

<<   作成日時 : 2013/10/25 05:07   >>

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秋の山ひとめぐりして人を恕す 玉宗


紅葉といえば俳人・故細見綾子先生には俳檀で膾炙した紅葉のエピソードがある。紅葉の季節に巡り合った吟行地で、彼女は決まって次のような言葉を呟いたという。

「今年の紅葉が一番きれいね。」

やっぱり今年も同じことを仰られたと回りの者は訝しむのである。昨年よりは明らかにパッとしない紅葉の時でも、「嗚呼、今年の紅葉が一番きれいね。」

細見綾子は、明治40年丹波に生まれた。細見家は江戸時代からの名家で、父は芦田村の村長を務めた人物。しかし綾子が13歳の時病気で亡くなる。その後、柏原高等女学校を卒業した綾子は日本女子大学国文科に進み同校を卒業し、昭和2年、20歳の時、東大医学部助手と結婚。その後、日本女子大学の図書館に勤務するが、昭和4年夫が突然病気で亡くなり、郷里の丹波に引き揚げた。同じ年に母が亡くなる。度重なる不幸による心労からか、同年の秋に肋膜炎を患う。

その養生をしていた時、地元の医師で倦鳥派の俳人の薦めで俳句を始め、その後松瀬青々に就いて本格的に俳句の道へと入っていった。戦後、沢木欣一主宰の「風」が創刊。綾子はその同人となり、翌年の11月に沢木欣一と結婚する。その後も、戦後の女流俳句を牽引する一人として注目され創作活動を続けた。平成9年9月6日永眠。享年90歳。句集『桃は八重』『冬薔薇』『雉』『伎藝天』等。著書『私の歳時記』。蛇笏賞を受賞している。晩年まで天真爛漫、感性豊かな写生俳句を発表し続けた。

その生涯を見るに、若き頃を病臥に過ごし、そして、愛する者たちとの相次ぐ離別があった。若き日の魂に刻印されたいのちの深淵、闇、絶望。そして、それからの超克。夫となる沢木欣一を戦地にへ送る日に彼女は次のような言葉を手向けたという。

「結局、どのようにして人生を美しく浪費するかではないかしら・・・」

又、俳句信条を問われると、

「写生、リアリテイーと詩というものは両立すると思います。現実は決して冷たいものではありません。」

現実は美しくも、醜くもない。あるがままである。美しいと感ずるこころ、そのような強い、柔軟な心、汚れない眼があるのだ。実際の綾子の暮らしぶりは飾らない「普段着」のものであった。そのような人間が人生を美しく浪費するのに何の遠慮もいらないと言うのである。その精神の強靭さ、潔さに共鳴しないではいられない。

「ああ、今年の紅葉が一番きれいね。」

このような感嘆の言葉は人生に無欲な者にして始めて口にし得るものではなかろうか。今を生きる拘りのなさ、素なるこころがある。死にゆくものにとって人生は浪費以外の何物でもない。帳尻を合わせようとしているのは人間の欲望が為せる妄想である。綾子の言葉は現実の厳しさ、優しさ、何気なさ、非情さを嫌ほど承知している人間の言葉なのである。あるがままを映す鏡のような心をもった人間がここにいる。

「今を美しく老いること以外に私は何も望むものはありません。」

私にはそのように呟いているようにも聞こえる。このような心映えは人生の山坂を実直に、感性豊かに歩んできた人間の、もみいづる命にしてはじめて成し得る言葉であろう。美しい人生というものはない。人生を美しい心で生きて行く人間がいるということではなかろうか。いつも初心で生きて来た綾子自身が紅葉を映した鏡のように光り輝いている。

<細見綾子作作品抄>

鶏頭を三尺離れもの思ふ
そら豆はまことに青き味したり
今ぬぎし足袋ひややかに遠きもの
子を抱いて山の煙は子に見えず
鑑真と母へ最後の牡丹挿す
来てみればほほけちらして猫柳
でで虫が桑で吹かるる秋の風
冬になり冬になりきってしまはずに
ふだん着でふだんの心桃の花
つばめつばめ泥が好きなる燕かな
きさらぎが眉のあたりに来る如し
くれなゐの色を見てゐる寒さかな
みごもりて裾につきゐる春の泥
つひに見ず深夜の除雪人夫の顔
生くること何もて満たす雉子食ひつつ
麦藁帽農夫の目尻いつも笑ふ
雪渓を仰ぐ反り身に支えなし
もぎたての白桃全面にて息す
女身仏に春剥落のつづきをり
水流れ雪ふることをこばまずに
春の雪青菜をゆでてゐたる間も
西行庵十歩離れずよもぎ摘む
年の瀬のうららかなれば何もせず
曼陀羅の地獄極楽 しぐれたり
天然の風吹きゐたりかきつばた
どんぐりが一つ落ちたり一つの音
キャスリン・バトル 虹立つように唱ひたり
牡丹十日 母にもの言ふ如きかな
門を出て五十歩月に近づけり


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「秋の雨」

暮れてゆく足音ばかり秋しぐれ

秋雨や人待つ街の灯に濡れて

秋深く山鳩含み笑ひせり

十月や日は錦なし闇鳴ける

秋の声空の奈落へ響きけり

朝寒に目覚め仏の燭点す

柿吊るすうつろひやすき郷の日に

焚火よりうちひしがれて戻りけり

難破せしこの世に月を浴ぶるかな

遠ざかる銀河手を振るばかりなり





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