再生への旅

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zoom RSS 今日の迷悟一如「自立への一歩」

<<   作成日時 : 2014/03/15 09:26   >>

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アネモネのいささか開き過ぎかとも 玉宗

私は秩父の臨済宗のお寺で最初の出家したのであるが、一年足らずで夜逃げをした。まだ真の出家の志もなく、況やお坊さんとしての自立もしていない日々を未だに忘れないでいる。夢にまで見ると言ってよい。

夜逃げした後、野宿や托鉢もどきのことをして日本各地を彷徨い歩くことになるのだが、臨済宗の衣を着て網代傘を被り、ある意味得意然と闊歩していた。本人はお坊さんであることを露も疑っていなかったのだから、傍迷惑な話しではある。お目出度いことこの上ない。

いうまでもなく、お坊さんとして生きていくには師匠を見つけなければならない。紆余曲折があったが、さる老師を訪ねた折りのことであった。その老師が書かれた本をどこかで読み、出家者として生きる道を導いてくれるのではないか、という手前勝手なシナリオを持ち合わせ、胸躍らせていた。美しい誤解や手前勝手な夢を携えて生きていたわけである。

各駅停車で目的地へ乗り継ぎ、ふらりと駅に舞い降りた。あっちへ行ったり、こっちへ戻ったりして脚にまかせて歩いていたら、なにやら立派なお寺の前に出た。
「ここか。」
あたって砕けろ、とばかり山門を潜り、住職に拝謁を乞うた。暫し待っていると、如何にも肉山の住職でございますという想定外の御仁が出てこられた。これはまずいと察したが時すでに遅し。ぼそぼそと弟子入り志願の旨を口にすると、じろりと一瞥し、

「どこの馬の骨とも分らぬものを、弟子になどできる訳がないだろう。」

怪しむ様な、且つ呆れた顔をして奥へと引っ込んでしまった。取りつく島がなかった。

「、、、、なるほど、どこの馬の骨、であるか。」

ガーンという感じ。(実際音がしたように感じたものだった。)ここでへこたれず何度も入門を冀い、志の本物であることを訴えるのであろうが、あろうことか、私は一回の問答ですごすごと退散したのである。

来た時には見えなかった参道の坂道を下って行くと、夏の夕焼けに染まってゆく街並みが広がっている。

その美しいこと!

あのとき私は自分の身の丈、置かれている状況に打ちのめされていた。しかしそれ以上に、眼前にひろがる夕焼けの美しさ、その確かさにこころゆさぶられていたのも事実である。あんな、美しくも切ない夕焼けというものをそれまで自分は見たことがなかった。というより、美しさに感動したことがそれまであっただろうか、というような体験だったといってよい。全身が眼だけになったような。夕焼の景色と一体になったような。それは弟子入りを断られて打ちのめされた以上に、現実感を伴った事件であった。自己の殻を見事に打ち砕かれた最初の些細な体験であったといっていい。ありのままの世界に触れた最初であったのかもしれないと今でも思っている。

あの時、五体に湧いてきた小気味よい解放されたような脱力感のようなものを、三十年以上経った現在でも忘れないでいる。しかしそれは、何のことはない、当たって砕けちゃっただけのことなのである。何が?夢が、観念が、偶像が。それはなんと具体的な実感であったことか。

「雲水として放浪するのもわるくないな。」

そしてなぜかそのような結論に落ち着く。
その夜、私は駅裏のいかがわしい木賃宿(死語?)に泊まり、翌朝管理人が怪しんで起しに来るまで熟睡してしまった。何処へゆく当てもなかったのだが、「どうにかなる。」という呑気な信念に曳かれ、思考の停止に胡坐をかいてその後も師匠を探し歩いていた。

「どこの馬の骨」事件は、ある意味見当違いな、前向きな絶望を抱えることとなった。
その後も青春の浪費を続けていくことになる。まさに若さという奇跡の日々がつづいていたのであるが、振り返るとそれは当にお坊さんとしても人間としても、自立への一歩を歩み出していたことに気付くのである。そのようなわが青春の放浪を未だに夢に見る。そして、夢もうつつも、迷いも悟りも大差ないことに驚く私でもある。


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「パンジー」

後悔はしない三色菫かな

パンジーの花には寒きけふの風

春一番なら昨日吹いてゐましたが

をととひが随分むかしあたたかし

白梅やまだ開けきらぬ空の色

春愁が大福餅を平らぐる

名残り雪ひとり遊びをしてをれば

たらちねのうたゝ寝福寿草芽吹く

ものの芽にこれみよがしの日の陰り

春落葉やぶれかぶれの風に舞ひ

温みては行きて帰らぬ水の音






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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
このお話、ぜひ続編を書いてください。お願いします。できたら、ここまでの前編を含む長編の「仏弟子への道」をお書きになりませんか。
志村建世
2014/03/15 23:42

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