再生への旅

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zoom RSS 今日の以心伝心・父の口癖

<<   作成日時 : 2016/08/23 07:46   >>

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盆過ぎの海おそろしや風立ぬ 玉宗


「様々だなあ・・」と呟くのが父の口癖であった。
そんなときの父の表情を半世紀近くになろうとしている今も、私は未だに忘れられないでいる。それは好きなお酒を呑んで酔いの勢いを借りたときだけではなく、素面の折りにもしばしば耳にした。子供心にも不思議な響きを持った言葉だった。人の噂話を聞き及んだときや人間模様に思いを致しているようなとき、又は、テレビでの事件事故の報道にふれたときなどに思わず零れでる、そんな言葉だった。「呟き」という、救いようのない吐息のような言葉があることを初めて知った。あの正体はいったい何であったのか、大人になってからもずっと気になっていた。

そんなある日、酒に酔った父が当時中学生だった私に絵を描いてみせてくれたことがあった。父は学歴もなく、小さいころから漁師として生きて来たのだと思い込んでいた私であったが、酔った勢いながらも出来上がったその絵は、子供ながらにも「ただものじゃないな・・・」と心動かされるような墨絵であった。

「様々だな・・・」

苦笑とも、羨望とも、恥辱とも、諦念とも、呪詛とも聞こえたその呟きを私は忘れられない。
父の語ることのなかった人生への無念さが、思わず口を突いて飛び出したかのようで、子どもながらに同情を抱いたものだ。思えば、子供という可能性は大人の呟きやため息に敏感に反応し、聞き洩らさないものなのだ。父の夢、それも、叶うことのなかった小さな夢を垣間見たような気がした。そして、そのような父への同情と共に、見てはならない父の秘密を見てしまったようなやるせなさもあった。私には父を愛する以外にどうすることも出来なかった。

大人という人生の沖の寂しい風景を垣間見たということだったのだろう。後にも先にも、一度だけの、己の魂の秘密を子供に明かした父。人生に光りと影があることを教えてくれた父よ。

「様々だな・・・」

ここ数年来,私も事あるごとにそう呟いている自分に気づいている。私もまた、叶わざる夢の幻影に魘され続けている人間であるということか。「何様だ」という口癖は夫人に注意されることは多いが、「様々だな、、」は、夫人もその思いの深さを計りかねているらしく、今のところ何の反応もない。


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「母なるもの父なるもの」

稲といふ母なるものの香なりけり

残照に早稲のにほひや能登外浦

奥能登のとある田舎のねこじやらし

母はもう溺れさうなる稲穂波

秋風の分け入る先や越の国

送行の僧が降りたる能登鹿島

秋ひとり土手を歩めりどこまでも

家を出て家の恋しさ赤まんま

砂に書く一文字秋の波が消し

実はまなす波の音にも日の暮れて

沖といふ父なるものや秋の声


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「鳴く」

而して虫の声聞く夜なりけり

あかときの夢のつづきや草雲雀

蟷螂の泣くに泣けざる手なりけり

この家の阿修羅に鳴けるちちろかな

夕暮れは子を差し出せと鉦叩

邯鄲に夜の深さのありにけり

じつとして鳴かぬ竈馬の怖ろしき

火宅の灯届く辺りにがちゃがちゃと

松虫や枕を抱いて眠る癖

地虫鳴く夜更けて帰る人生に

月出ぬとふらりと螻蛄の鳴く方へ

蓑虫も末をおもはむ梢の月



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「肩の荷」

稲の香や母に抱かれてゐる如し

芋虫の蠢いてゐて憂かりけり

新涼の地べたを歩く烏かな

乙女さび秋海棠の花のいろ

えのころを蹴散らし風の旅立ちぬ

野に下り都忘れといふ花を

差し込める日の衰へや秋簾

露草のまなざし深き花のいろ

肩の荷を降ろせとゆるゝ芒かな

天かける星の行方や鮎落ちぬ














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