今日の妄想「夫人、置いてかないでえ~!」
不如帰まだ見ぬ夢の向かうより 玉宗
どうしたことか、旅より戻ってから夫人が一緒にウオーキングをするようになった。
一人で歩くより余程楽しいので文句はないのだが、なんかペースがイマイチ合わない。ああだ、こうだと言いながら夕べも輪島の海岸添いの道を歩いたことだった。思えば、結婚して以来、お互いに運動らしい運動もしてこなかった。還暦を2年後に控えて二人とも健康志向にならざるを得ないような昨今である。頭の方も、最近とみに「痴呆」へ傾斜しているのではないかと怖れはじめている。私は夫人より以前からメタボ解消のために体を動かすように心掛けてはいたのだが、成果はイマイチ。夫人が一緒ならば目的完遂も夢ではない、などと淡い夢を抱いたりする。
ところで、初めて夫人の見合い写真を見た今から30年前、その和服姿に日本女性のしなやかさ、艶やかさとまではいかなくとも、いささかなりの日本的陰翳・情緒を醸し出していた。結果的にそこに賭けてみたのであるが、予想を寸分たがわなかったと言いたいところだが、そうでもない予想外な面をこの30年掛けて認識させられてきた様にも思える。わが妄想の愚かなることを知りつつあるということだろうか。
その一つに夫人が意外とオテンバであるということ。少なくとも、小さいころの婦人は明らかにオテンバ娘であったに違いない。男なら餓鬼大将。子分を連れて鼻水垂らして泥だらけ。実はそんな写真を古いアルバムから見つけたのである。とはいうものの、先代の住職のしつけがよかったのか、夫人も長ずるに及んで、どちらかと言えば「おしとやかさ・謙虚さ」を身につけてきたようなのである。アルバムの中には小さいころから一人で猫と遊んでいる夫人の写真が多くあった。カメラが趣味だった先代が遺した膨大な写真には昭和の古き良き時代の家族の姿があった。
然し、夫人に言わせると私と結婚して自分の性格も変わってしまったらしい。
「お父さんと一緒になる前は、こんなんじゃなかったのに・・・」
「どんなん?」
「もっと、ゆったり、のんびり屋さんだったんだけどなあ・・」
「わし、せっかちやさかいねえ・・えらいすんません」
「最近、髪の毛もよく抜けるし、もの忘れがひどいし、腰も痛いし・・きっと痴呆になるわ。そんときはお父さん、よろしくね」
「ん~、面倒見るに吝かではないが、そんな心配するより一緒に生活習慣改善していこうぜ。まだまだリタイヤする訳にはいかんのだからね。弱音を吐くなよ・・」
われながら虫のいい男ではある。寺務、家事の煩瑣な領域を全て夫人に丸投げして今日まで生きてきた私である。よくぞ今日まで私についてきてくれたものである。辛抱強いことは間違いない。それにしても、これまで身心に積もった夫人のストレスに思いを致すこともなかった。熟年離婚の心配より夫人の体の方が心配になってきた手前勝手な亭主ではある。いづれ夫人に置いてきぼりを喰らうことになるのかもしれないと思うと居ても立ってもいられない。明日も一緒に歩いてやろう。
「螢袋」
風が来て振つてみせたる釣鐘草
家を出て家恋ふほたるぶくろかな
ほたるぶくろ咲いてさいても一人きり
友なくてほたるぶくろの灯を点す
えごの花散るにまかせてしづけさよ
百足虫撃つ阿修羅のごとき妻なりし
不如帰まだ見ぬ夢の向かうより
われなくてよかりしこの世青簾
草を引く父をあはれとおぼしめす
竹婦人兄の部屋より投げ出され
花菖蒲母が褥の湿りあり
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