『拝啓、良寛さま』その27

IMG_1540.JPG


「托鉢の風景・その5」


三十年以上托鉢をしているので、輪島市内の路地を裏の裏まで知り尽くしている。夢にまで出てくるほどだ。これってやばくない?と思うこともある。犯罪者に手引きを頼まれたら強力な後方支援者となるに違いない、って妄想もしたりする。まあ、それは冗談だが、お坊さんを引退したら郵便屋さんでやっていける自信はある。あの路地には犬がいるとか、いないとかも当然知っている。

今日はそのワンちゃんで苦労した托鉢の話し。漁師町である海士、輪島崎町には猫が多く屯していることは以前にも記事にした。犬も猫も私は特に敬遠している訳ではない。所謂ペットという存在へ同情、親近感さえ抱いていると云ってもいいのだ。が、積極的にアプローチしたいと言うほどでもない。彼らが居てもいなくても、まあ、とくに不都合や淋しさを感じるというものでもない。であるから、彼らに敵意や憎悪などさらさらないつもりなのだが、何故か犬には吠えられるし、猫には無視され通しなのである。これって、ちょっとひどくない?

因みに妻は猫人間である。といっても化け物ではない。やたらと猫に親しまれるし、どうも端から様子を窺っていると猫語さえ交している形跡がある。まあ、妻のことはどうでもいい。その犬なのだが、輪島の永福寺では寒中一ヶ月間恒例の托鉢を毎年続けている。托鉢の装束というのをこのブログでも御覧になったかと思うが、雨、雪、防寒として合羽やコートのようなものを纏う。上から下まで黒ずくめに近い。まして夜ともなると黒い塊が鈴をふってお経をブツブツ称えて歩いているのである。人間が見てもそれは異形であり、幼子は泣きだすこともある。犬が吠えない訳がない。昼間でもそうである。彼等には托鉢している私がどのような姿に見えているのだろう。

輪島では野良猫に比べて野良犬というのは殆ど見られないのが救いではある。一度その野良犬らしき風態に出くわしたことがあったが、何故が向うの方から遠ざかっていった。あきらかに私を怖れていた。始末に悪いのは鎖に繋がれた飼い犬である。毎日通るたびに激しく吠える柴犬がいた。いつも知らんぷりして通り過ぎていた。それが気にいらなかったのか。そんなに大型ではない。あきらかに私の方が大きい。その日も又、いつもの如く前を通りかかった。

「ウ~ ワンワンワン!」
「はいはい、ごめんなさいよ。ちょっと通らさせてね、はいはい。」
「ウ~ ウワッウワオ!」

って、いつまでも啼き止まない。振り返ると一緒に後をついて来ているではないか!

「鎖が切れてる! やばい・・・」

背中を冷汗のようなものが流れたのを記憶している。

「ここで死ぬわけにはいかない。」

〈托鉢のお坊さん、柴犬に噛まれて死亡!〉なんて新聞記事に載るなんてかっこ悪いし。思わず身構えた。向こうも牙を剥いている。こちらは網代笠を被り、合羽を着ていて、あきらかに不利である。視線をそらさぬようにゆっくり腰を屈めて傍らの小石を拾い、敵へめがけて投げ付けた。(正確には当たらない範囲の所へ、、、動物虐待なんて云わないでください。こっちは本当に必死だったんです。)

相手は一瞬怯んだが、更に激しく吼えたててこちらへ走りだしてきた。このときの私のとった反応は、われながら常軌を逸していたかもしれない。髪振り乱してという訳にもいかないので、まあ、托鉢合羽や網代傘を振り乱して柴犬の正面に叫びながら向かって行ったのである。まあ、武蔵と小次郎が正面から強硬突破をしかけたようなシチュエーションを思い描いていただければいい。

「こらあ~なんやちゅうねん! いい加減にせんか~ ウオウ~!ウオウ!うお~!」
「キャンキャン・・」

結果は私の勝ちである。彼は当に尻尾を丸めてわが主のもとへ走り去って戻ることはなかった。遠くでいつまでも名残惜しそうに吠えてはいたが。周りを見渡すと何の騒ぎかと飛び出してきた近所のおばちゃんたちの呆れた視線があった。

「かんじーざいぼーさーぎょうじんはんにゃーはらみーたーじー・・・・・・・・」

その後、その柴犬は鎖に繋がっていても吠えるようなことはなかった。私の強さを思い知ったのか、お坊さんとして有るまじき振る舞いに呆れて吠える気にもなれないのか、どっちかだろう。

そして更に数年経ってお寺を訪問するご夫婦がいた。

「可愛がっていた飼い犬が亡くなったんです。お経をあげていただけませんか、、」
「いいですよ。それでお名前は?」.
「玉ちゃんです。」
「・・・・・・・・」

箱の中に毛布で包まれた犬を見ると、嘗て一戦を交えたワンちゃんではないか!
「お前、最近大人しいと思ったら、そうだったんけ、、お前もさびしかったんだな。」
懇ろに戒を授け弔いのお勤めをさせて戴いた。今ではお寺の裏山に眠っている。合掌。(つづく)







IMG_0517.JPG


「火の色」
キリストの愛は火の色冬薔薇
産声に火のつく寒き馬小屋に
クリスマスローズ愛に打ちのめされて
粕汁に饒舌の舌焦がしけり
雪野来てワイングラスを傾ける
灯映る霜夜の窓をなぞりけり
羽毛蒲団マリアに抱かれゐたるかと
割り切れぬ世となおもひそ蜜柑剥く
クリスマスイブのしづけさ夜の窓
神の子生まれ鯨潮吹く月の浦



IMG_8477.JPG



「あとのなき」
朝市の地べたに坐り飾売り
人を焼く煙りの山も眠りけり
怖いものみたさに生きて風邪引いて
数へ日の厠に聞くや寺の鐘
葉牡丹や街ゆく人に声もなし
あとのなき心細さに年歩み
茶の花やおもかげうすき人ばかり
皸の疼く一人の夜なりけり
野を駆けて地を這ひ風の兎罠
寂寥の押し寄せてくる霜夜かな

"『拝啓、良寛さま』その27" へのコメントを書く

お名前
ホームページアドレス
コメント

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。