再生への旅

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zoom RSS 高野ムツオ著『時代を生きた名句』

<<   作成日時 : 2012/08/09 03:35   >>

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けふよりは秋の簾ぞなり下がる 玉宗

高野ムツオ氏より『時代を生きた名句』を送呈して頂いた。本書は、高野氏が「NHK俳句」2009年4月号から2012年3月号までの3年間、「時代を生きた俳句」「歳月を映した俳句」として連載したものを加筆、再構成したものである。「大人のための俳句鑑賞読本」というサブタイトルが付いている。その中から私好みの名句をいくつか紹介してみよう。

序章 災禍を越えて

三月十日も三月十一日も鳥帰る  金子兜太

三月十日は東京大空襲のあった日と捉えてもいいだろうし、三月十一日の東日本大震災の前日としてもいいだろう。金子氏にしては珍しく「季語」に全てを委ねているが如きの一句である。俳句界の大御所と雖も多くを語れない現実が見えてくる。

ただひとりにも波は来る花ゑんど  友岡子郷

阪神大震災を体験された友岡氏。震災後の日常のひとコマであろうか。ここにも人生の不条理を受け入れようとしている寡黙な人間像が胸に迫る。

戦争がはじまる野菊たちの前  矢島渚男

戦争という人間の愚かさが絶える事のない現実。そこにはいつも人間を癒し、そしていつも踏み躙られてきた野菊が咲いていた。



第一章 生と死のはざまで

人殺すわれかも知らず飛ぶ螢  前田普羅

山岳俳句の嚆矢でもある普羅には珍しい人間性への洞察。

生きかはり死にかはりして打つ田かな  村上鬼城

自己の内面を見据えた花鳥諷詠師。

咳の子のなぞなぞあそびきりもなや  中村汀女

女流俳句をになった汀女俳句。時代が見えて来る。

戛々とゆき戛々と征くばかり  富澤赤黄男

戦争が廊下の奥に立つてゐた  渡邊白泉

繃帯を巻かれ巨大な兵となる  渡邊白泉

水脈の果て炎天の墓碑を置きて去る  金子兜太

鳥わたるこきこきこきと罐切れば  秋元不死男

広島や卵食ふとき口ひらく  西東三鬼

いつせいに柱の燃ゆる都かな  三橋敏雄

金子と秋元を除けば無季俳句の名句である。いずれにしても、一句の詩の核になるものが、所謂「季語」だけではないことを証明していよう。彼らには時代を生きる思想がある。

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第二章 復興の祈り

地の涯に倖せありと来しが雪  細谷源二

戦後の空へ青蔦死木の丈に充つ  原子公平

銀行員等朝より蛍光す烏賊のごとく  金子兜太

暗闇の目玉濡さず泳ぐなり  鈴木六林男

ゆるやかに着て人と逢ふ蛍の夜  桂 信子

おそるべき君等の乳房夏来る  西東三鬼

縄とびの寒暮いたみし馬車通る  佐藤鬼房

塩田に百日筋目つけ通し  沢木欣一

大寒の一戸もかくれなき故郷  飯田龍太

便所より青空見えて啄木忌  寺山修司

新宿ははるかなる墓碑鳥渡る  福永耕二

戦後は俳句の復興でもあった。時代へ切り込み、そして自己へ切り込んで行った若い俳句作家たちの軌跡が遺されている。

第三章 来し方行く末

金亀虫アッツに父を失ひき  榎本好宏

万緑の中や吾子の歯生え初むる  中村草田男

万緑や死は一弾を以て足る  上田五千石

今生は病む生なりき鳥頭  石田波郷

一生の手紙の嵩や秋つばめ  田中裕明

霧の村石を投らば父母散らん  金子兜太

犬一猫二われら三人被爆せず  金子兜太

妻がゐて夜長を言へりさう思ふ  森  澄雄

長き夜に苦しみを解き給ひしや  稲畑汀子

月光にいのち死にゆくひとと寝る  橋本多佳子

いくたびも雪の深さを尋ねけり  正岡子規

面影と酒が残っていて寒し  池田澄子

鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ  林田紀音夫

死ぬときは箸置くやうに草の花  小川軽舟

桑の葉の照るに堪へゆく帰省かな  水原秋櫻子

俳句もまた文学であることを免れない。ここには確かにひとりの人間がいる。それが嬉しい。

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名句とは何だろうか。

ここにあげられた作品群に共通していることは、徹底的に自己の世界に拘った果てに照らし出された普遍的な表現世界があるという事実ではなかろうか。流行と不易を兼ね備えているということ。
又、俳句は作者の名前がなくても一向に構わないということを如実に証明しているが如きである。名前や前書きに拘泥するのも生きている間のこと。作品は作者の手や思いを離れたときから自立への流浪をしている。

歳月の網の目や照射や滋養を経ても一句として堪え得る作品だけが名句として残されていくのだろうか。時代を映し、人間をあぶり出す一句。私もそんな、卒塔婆のような一句ができれば本望である。














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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
一切の声途絶えたり秋に入る  よし
yoshiyoshi
2012/08/09 04:55
フローレンスからボンジョルノ
卒塔婆のような句 何か残りますね今日のお言葉は。この句に惹かれました。
死ぬときは箸置くやうに草の花  小川軽舟
今日もみんなにも 良い一日でありますように!人間にポチります。
Florentia55
2012/08/09 05:02

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