再生への旅

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zoom RSS 網代傘の向うに見えるもの

<<   作成日時 : 2013/01/07 05:06   >>

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冴え増さる朝のかなたに見ゆるもの 玉宗

永福寺に入って以来25年以上続けている寒行托鉢。毎日市内を3時間から4時間ほど歩いている。歩く道程は決まっており、殆ど眼を瞑っても歩ける。冗談ではなく夢にまで見たこともある。路地の隅々まで知り尽くしていると言ってもいい。私の托鉢は「流す」と呼ばれるやり方で、お経を低声に詠み続けながら、鈴を鳴らして歩くのである。興禅寺の托鉢のように一軒一軒の玄関先に立つような事はしない。心ある人は、鈴の音を聞きとめて外に出て来て喜捨をするのである。吹雪く中を後ろから追いかけてきて喜捨をする方もときにおられる。通りすがりに喜捨をうけることもある。毎年のように喜捨して下さる家もある。昨年まで喜捨して下さった常連のおばあちゃんの姿が見えなくなり、亡くなったことに気付いたりすることもある。

網代傘の中の私は無心にお経をあげ、無心に歩こうと務めてはいるのであるが、そこは半端な仏弟子で、正直なところ、あの家ではいつもおばあちゃんが窓から声を掛けてくれる。あの家にはいつも丁重にお断りの言葉を掛けてくれる。あの人はいつも労いの言葉を掛けてくれる、あの家には吼え掛ける柴犬がいてできれば避けて行きたい。等々、妄想を抱いたりしていることを告白しておこう。えげつなく、冷めた目で廻りを窺っている自分がいる。喜捨をする方の布施の離れ際まで、その潔さや行儀のよさ、反対に吝嗇な人間の心根まで透けて見えたりする。如何にも恵んでやろうといった勢いで喜捨をされる人がいたり、気の毒なくらい気の毒がって、100円を惜しむように喜捨される人もいる。勿論、大多数、というか、圧倒的多数は只の風景として通り過ぎてゆくだけである。網代傘の向うに見える世界とは、諸行無常を目の当たりにしていると云ってよい。

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大かたは一人の托鉢行者の存在は世界の大勢に何の影響もないといった風情にも見える。それもまた可ならんか。私がいてもいなくてもなんともない世界がなければならない。そのような世界で、一期一会の出会いを授かるための托鉢でもある。「行」もまた「縁」の世界の用様子を帯びている。喜捨する方もまた「捨てる」という「行」を実践しているのではあるが、縁もゆかりもない行者に大枚を喜捨する人はそう多くはない。というより、そこはそれ、喜捨の遣り甲斐があるお坊さんを選ぶというのが人情ではあろう。そういう意味では、私は毎日私の「行」を試されてはいるのである。私は仏道で自己を表現するしかない。

畢竟、網代傘の向うに見える世界とは、わが仏道の真偽がそのまま反映されている世界でもあろう。どこまで自己を忘ずることができるか。同環の行持に生きることができるかどうか。仏道は仏道の為に、「行」は「行」の為に存在するものでなければならない。何故なら、そこにしか私の再生の契機はないのだから。行き詰まらない生き方、死んで生きるとはそういう次第の事を言っている。仏道というかたちがあっての私である。様々なる生き方。様々なる意匠。様々なる表現がある。私は人の世のあり様を云うのに、それ以上のことを言いたす事が出来ない。

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「寒」

僧ひとり冴ゆる鈴の音鳴らしゆく

寒禽や無神論者の鼻の先

大凡はわが世過ぎたり日向ぼこ

ながらへて冬の日向のやうにあり

改宗の力及ばぬ冬芽かな

泣き寝入るほかなし氷柱太る夜も

正直な顔して寒に堪えてをり

嘘つきは嫌ひ水餅沈めけり

魔物なる恋ぞ破魔矢を固く抱き

托鉢のみな仰ぎゆく氷柱かな

絶望に厭いては梅を探しをり

出稼ぎの父が恋しき氷柱かな

生きてゆく手際の悪さ寒に入る

裏山に尻もちついて滑子採り

セロリ食む聖書の謎を解けぬまま

寒鴉己が洞に鳴きにけり

寒卵唯一無二といふかたち

日暮れむと後退したる雪嶺かな





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内 容 ニックネーム/日時
この辺では寒に限らず、托鉢をなさるお坊さんを見たことがありません。子どもの頃は「かんぎょう」といってうちわ太鼓を打ちならしながら歩く人々を見たことがあります。お坊さんが御経を唱えながら托鉢をされる風景の中での生活と、それがない景色の中での生活、何かが大きく違うような気がします。風邪などお引きになりませんように。

2013/01/07 15:51

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