再生への旅

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zoom RSS 年季がものをいふ?!

<<   作成日時 : 2016/01/22 19:42   >>

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明日もまた生きるつもりの火を埋む 玉宗


教員を長く勤めてこられた檀家さんが九十四歳で亡くなった。
正直とっつきにくい人ではあったが、ときに屈託なく笑う顔が印象的ではあった。どうしたらこの笑顔を向けてもられるようになるのだろうかと思案したものである。

仏弟子もまたそうであるように、教育者とはいってみれば理想を掲げて生きていく部類の人たちであろうと思っている。可能性に寄り添うという生き方。そのような志しに生きる人生の実際とは理想通りにはいかない現場でもあっただろう。

できの悪いのもいれば、小賢しいものもいる。鈍根利発、有象無象であるのが人間社会の実際である。そのような人間への寄り添いとは如何なる志のなせる技なのか。しかし、同時にまた、そのような困難こそに道を生きる醍醐味もあるのだろうし、自己の器を深め、豊かにしていく恩恵もあろう。人間観察を知らず知らずのうちの重ね、嗅ぎ分け、見分け、聞き分ける能力を育てているのかもしれない。教師だけでなく、お坊さんというのも意外と人間通であることが多いのはそのような理想と現実にゆれる人間模様を目の当たりにする機会が多いためでもあろう。

そのような道の歩みはまた初心に生きているとも言えよう。初心正しからざれば万行空しいとも云われる。見方を替えるならば初心さえ貫いて生きているなら、年季を重ねることによって身につき、心につくものがあろう。年季にものを言わせて、などと批判的に言われることもある「年季」であるが、生きて来た歳月が疎かならざるものであることを人は意外と認めたがらない。無駄なものなど一つもない、といえばいかにも能天気、性善説に傾きすぎていると云われそうではあるが、糸瓜は糸瓜なりに無為なる日々のうちにも糸瓜の志しに叶った血肉となっていくではあるまいか。

現代は若いということがもてはやされている観がある時代だが、年季がものを言う存在感が彼らにあるかどうか。換言すれば、歳月の作り出す人格の厚みといったものは若さがどう逆立ちしたって手に入れることができるはずもない。先輩だから、大人だからと訳もなく単に年功序列を奨励しているのではない。若さには若さの特権があり、輝きがあり、ダイナモがあり、飛躍があり、発見があり、役割があり、そして危うさがあり、生々しさがあり、毒があり、嘘があり、影があり、そして絶望がある。

年季にもいろいろあるのが正直なところだ。腐臭を放っている年季があることも確かではある。老いも若きもそれぞれに謙虚であらねばならんだろう。
生きて来た歳月の醸し出す人間の存在感。智恵。分別。寛容さ。それは彼らの偏屈さを差し引いても傾聴に値し、まなざしを向けるに値するものではないのかな。なぜなら老いはやがて死に行く人生の、有無をも言わせぬ現場の最先端でもあろうから。可能性に生きるという夢が色褪せようとしている。

人生とはついに一つのお勤めでもあろうかと思うのである。「ご苦労様でした。」臨終の枕元に座ってそのような感慨が湧く。まさに死という年季がものを言っているのである。そんなことを気づかせていただいた古老との出会いと別れであった。


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「善哉」

さ迷へる星座とおもふ鯨かな

凧上げや妙に明るい土手の上

帰り咲くものへ寄り添ふこころあり

白菜の解けたがるを叱るなり

一本で足りるひともじ抜いて来る

鮟鱇の顔といふには身に余り

生きものの脛に傷ある炬燵かな

すれ違ふ人みな寡黙冬ざれて

夫婦善哉その日暮らしの餅焼いて

目覚むればすでに夕べの雪あかり

着膨れて沖を孕みし如くなり

憂きことのだれにいふべき海鼠かな


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「裏道」

腰巻がパオのやうにもけふ大寒

大寒の辻を曲がるや具を買ひに

大寒の尻を窄めて人を待つ

裏道を一人歩める寒さかな

オリオンに少し近づく肩車

どうしろといふのか氷柱持つてきて

底冷のそのまた底の臍の穴

冬景色終の棲家の流刑地の

亡骸の今剥きだしに月冴えて

凍滝の息する如き厚みかな

初めての夜は凄まじ鶏交む

月冴ゆる番屋の屋根のごろた石



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「愛」

うち仰ぐ空の絶壁雪下し

神々に愛されずして風花す

笹鳴きの用ある如くなき如く

煮凝りや愛の冷めたるやうにして

愛されてなんだか不安寒卵

愛といふ囚はれの身の隙間風

雪止んで宵の口ゆく人のこゑ

愛し合ふ雪見障子のこちら側

着た切り雀雪がうれしと跳ね回る

降る雪や愛の足らぬと云はむばかり




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市堀玉宗第三句集『安居抄六千句』

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