黒田杏子第一句集『木の椅子』

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黒田杏子第一句集『木の椅子』増補新装版(コールサック社・定価二千円)を頂戴した。

知る人ぞ知る彼の第一句集である。ときに氏は43歳。その清新な俳句が飯田龍太、鈴木真砂女、森澄雄、野沢節子、細見綾子ら、時の重鎮たちの注目を浴び一躍俳句界の新星として躍り出て、だれも予想しなかった協会新人賞やら現代俳句女流賞を受賞したという句集だ。

氏は今年八十二歳になられ、十月に現代俳句大賞を受賞された。もうほとんど私のような田舎俳人には縁のない伝説の人となった感があるのだが、こうして句集を出すたびに贈ってくださる律儀なところが凄い。

数年前に金子先生と一緒に興禅寺に寄って下さった日のことを思い出す。寄る年波で体調を崩されたこともあったようだが、あの好奇心に満ちた眼差しと存在感は変らなかった。そして、氏のざっくばらんさである。さすがの私もその拘りを捨てたオーラに敬服せざるを得ない。そこが魅力なんだろうね。ご健勝を祈る。合掌。

〇句集『木の椅子』抄

十二支みな闇に逃げこむ走馬燈
昼休みみじかくて草青みたり
休診の父と来てをり崩れ簗
雪嶺へ身を反らすとき鶴の声
かよひ路のわが橋いくつ都鳥
立読みのうしろに冬の来てをりぬ
小春日やりんりんと鳴る耳感環欲し
白葱のひかりの棒をいま刻む
葛原を母と越え来し風の盆
暗室の男のために秋刀魚焼く



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「籠堂」

朝粥に生きた心地や臘八会

空をゆく鳥影もなし山眠る

雪安居臍のあたりの温かりき

仏弟子の夢遥かより北吹けり

しはぶきの他は音なき坐禅堂

總持寺の鐘の音とどく大根かな

韋駄天の閼伽にさざ波雪起し

面壁の影のゆらめき雪来るか

霜の夜の一灯暗し籠堂

成道の星の瞬く夜なりけり



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「煎餅」

煎餅を割る音のして十二月

一日があつといふ間に石蕗の花

縛ったり隠したり冬怠けたり

さよならをいふ間もなくて山茶花散る

クリスマスローズ包帯に捲かれたる如し

雨だれの花と飛び散る八手かな

山寺の天井走る鼬かな

羚羊の立ち現れて消えにけり

狸来る闇に塗れて泥臭く

粕汁や熊を親父と呼ぶ里の

冬眠のいく夜経巡る星の数

熊穴に入りたる夜の鄙酒場



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